先日、アレルギーで皮膚が真っ赤で毛も薄く、カサカサのバリバリだったとあるワンちゃんに再会。飼い主さんが手作り食と甘酒を続けているとのことでしたが、
いつの間にか犬の皮膚と毛がつやつやになって、体つきもふっくらと健康になっていました。私はあまりの変化に驚きを隠せず、思わず甘酒の銘柄を聞いてしまいました。
糖質が多く犬に良いのかなと懐疑的だった甘酒なのですが、実際に皮膚がツヤツヤになっている犬に会ったことで、甘酒と犬のアレルギーについて検証せねばと決心。今回は甘酒についてのお話です。
甘酒には二種類あります、犬にあげて良い甘酒はどっち?
ひとくちに「甘酒(あまざけ)」と言っても大きくわけると二種類あります。
・酒粕に砂糖などを加えて作った甘酒
・お米と米麹(こめこうじ)で作った甘酒
酒粕から作った甘酒は、
1 砂糖が入っているの
2 アルコールが残っている
以上の理由で子どもにはNGとなっている酒粕の甘酒。こちらは犬にあげてはいけません。
お米と米麹から作った甘酒
こちらが犬に良い甘酒です。
原材料:米、米麹
裏面をしっかり確認してから甘酒を選びます。
甘酒の何が皮膚に良いの?
調べてみると犬と甘酒にアレルギーについての研究がほとんどありません。ヒトでの研究を参考に何が甘酒の何が犬の皮膚に良いのか考えます。
キーワードは
・カテプシンB
・グルコシルセラミド
・コウジ酸
・Nアセチルグルコサミン
・ビタミンB群
・水溶性食物繊維
では一つ一つ甘酒の成分の特徴を見ていきましょう。
アレルギーと関係するカテプシンBと甘酒
ヒトの一部のアレルギー反応には、「カテプシンB」と呼ばれる酵素が関与しているようです。コウジ菌はカテプシンBの働きを阻害する物質をいくつか産生することがわかっています(※1)。これによりアレルギー反応を緩和する可能性があるのです。
カテプシンBという物質は、犬では心臓の筋肉や弁の病気、脳の血管の老化との関連が研究されています(※2、※3、※4)カテプシンBとの関連を検討すると、甘酒が犬では心臓の病気や老化の予防に良い可能性がでてきました。
皮膚のうるおいを保つグルコシルセラミド
甘酒にはグルコシルセラミドという成分が含まれています。皮膚のうるおい成分と呼ばれており、こんにゃくなどにも含まれています。腸の善玉菌を増加させる効果も期待されています(※5)。皮膚のうるおいを保つことで、敏感肌や乾燥肌が原因のかゆみが出にくくなる可能性があります。
杜氏さんの美肌の秘密、コウジ酸
お酒を作る杜氏さんの手がキレイなのはコウジ菌の作るコウジ酸によって、
・皮膚の黄ばみの予防(糖とタンパクの結合抑制)
・黒ずみ予防(メラニン合成の抑制)
これらの働きで、白くてキレイな肌が維持されています(※6)。
犬のアレルギー性皮膚炎が長引くと、皮膚が黒ずんでバリバリになってしまいます。コウジ酸がこの黒ずみを抑制してくれるのかもしれませんね。
N-アセチルグルコサミン 元気な皮膚の材料と皮膚の保水力
米コウジに含まれるN-アセチルグルコサミンは、みずみずしい皮膚に必要なコラーゲンやヒアルロン酸の合成を促進し、皮膚表面の水分量増加に効果があるとされています(※7)。グルコシルセラミドと合わせて、みずみずしい皮膚、元気な皮膚を作る手助けをしてくれる甘酒の成分です。
疲労回復と美肌の材料、ビタミンB群
コウジ菌がお米を分解して繁殖するときに、ビタミンB1、B2、B6、パントテン酸、イノシトール、ビチオンなどを作ります。皮膚や粘膜を元気にしたり、疲労回復を手助けするビタミンB群。この中でビタミンB6が2-1に出てきたカテプシンBの働きを阻害する役割に関係していると言われています。
美肌の秘訣はおなかの健康 水溶性食物繊維
甘酒に含まれる水に溶ける食物繊維は、大腸に届くと善玉菌の力を借りて短鎖脂肪酸になります。これは大腸の細胞のエネルギー源です。大腸の細胞が元気になることで、
・腸の粘膜の修復を助ける
・腸のバリアが回復
・悪玉菌の増殖が抑えられる
腸が元気になると肌も元気になります。
さまざまな美肌成分と、体を元気にするビタミンB群や腸を元気にする水溶性食物繊維の働きが渾然一体となって「皮膚や体が元気になる」というのが甘酒がアレルギーや花粉症の症状を軽減する秘密のようです。
甘酒が犬のアレルギーのかゆみを止めるというよりは、健康の補助として気長に飲み続けると腸や皮膚が元気になり、いつのまにか痒みが減っていたというのが実情でないかと推測します。
犬に甘酒をどのくらいあげて良いの?
さて、犬と甘酒の研究が無いので、犬に甘酒をどのくらいあげたら良いかという目安が全くありません。人の情報や犬の栄養学をもとに甘酒の推奨量を考えてみましょう。
人ではこちらのサイトを参考にすると(※8)1日2杯程度 犬の体重に直せば5kgの犬で10〜15mlを1日2回というところ。
しかし、犬は人間より肉食寄りだと考えるともう少し甘酒の量は少ない方が良いと私は考えます。
犬の一日に必要なエネルギー量から考えてみましょう。
米と麹だけで作った甘酒は、100gあたり80〜100kcalくらいのエネルギー量です。5kgの犬で1日400kcalのドライフードを食べます。
フードのエネルギーの20%が炭水化物由来と仮定すると(※9)、炭水化物のすべてを甘酒に置換すると80ml。その半分くらいが上限かなとざっくり考えると40mlくらいが1日の上限かと推測。
全部ひっくるめた結論
体重5kgの犬で1日に大さじ1杯あたりが無難な量。
積極的に肌の健康を目指すなら大さじ1杯1日2回までは増量できる可能性あり。
体重に気をつけながらあげましょう。
腎臓病でタンパク質を制限されていて、エネルギーを炭水化物と脂質から摂取する必要がある犬などはもっと増やせると思います。
冒頭の飼い主の方から教えていただいたお米と米麹でつくった甘酒
どんな犬に甘酒がおすすめ?
甘酒にはたくさんの美肌成分が含まれている他に、疲労回復に必要なビタミンB群やアミノ酸、腸の善玉菌が喜ぶ食物繊維や、体を錆びから防ぐ抗酸化物質が豊富なことがわかっています。
・皮膚がカサカサして乾燥している
・皮膚が黒ずんでいる
・心臓の病気で食が細くなってきた
・老犬、特に食欲が落ちてきた犬に
・腎臓の病気があってタンパク質を制限している
・夏バテ予防
皮膚の病気以外にも、甘酒はいろいろなシチューエーションで犬の健康に役立ちそうです。
心臓病と甘酒
甘酒がカテプシンBという物質の働きを阻害することを2−1でご説明しました。カテプシンBは犬の心臓の筋肉や弁の病態との関連が示唆されています(※2,3)。
心臓病の犬に甘酒を飲ませたデータは無いのですが、甘酒が心臓のお薬であるアンギオテンシン酵素阻害剤と似たような作用をする物質を持っていて血圧を下げるというデータもあり(※9)、心臓病の犬に元気でいてもらうにはとても良い飲み物かもしれません。
我が家の犬の片方が、「僧帽弁閉鎖不全症」で心臓の薬を飲んでいます。甘酒とアンギオテンシン変換酵素とカテプシンBの関係を知ってから、朝は愛犬と一緒に甘酒を飲んでスタートしています。
老犬と甘酒
甘酒に含まれるコウジ酸は、「糖化」というプロセスを邪魔します。皮膚で糖化が起これば黄ばみ、黒ずみ、脳の血管で糖化が起こると脳の老化が起こります。糖化を邪魔することで老化予防ができるかもしれません。
甘酒は、麹菌の作ったミラーゼをはじめとする消化酵素を豊富に含んでいるため、消化機能の衰えた老犬の胃腸にオススメしたい食材です。
腎臓病と甘酒
犬が腎臓の病気になると、腎臓に負担のかかる「タンパク質」を制限することになります。炭水化物または脂質からエネルギーをとるのです。
お米のデンプンが既に麹菌によって分解されており、少量のタンパク質もアミノ酸の形となっている甘酒は食事に制限のある腎臓病のワンちゃんの強い味方になります。
水分をタップリ取ることも必要な腎臓病の犬では、甘酒を2−3倍に薄めて水分を積極的に取る手伝いをすると、老廃物を尿に出す助けとなり、一石二鳥です。
夏バテと甘酒
甘酒といえば温めて飲むイメージがありますが、「甘酒」な夏の季語、冷やして夏バテ予防に飲むと効果的な飲み物です。
消化酵素タップリの甘酒は、暑さに疲れた胃腸が消化にエネルギーに使わずに済み、ビタミンB群で疲労回復も期待できるので、夏バテ予防に一役買ってくれる飲み物です。
犬に甘酒を与えるときの注意点
甘酒100gあたり糖質が20gほどあります。犬は大喜びで甘酒を飲みますが、あげすぎると快調に太りますので気をつけましょう。
最後に
ガサガサだった皮膚のワンちゃんがあまりにツヤツヤで健康的になっていたため、ビックリして甘酒の効果について今回はまとめてみました。
・グルコシルセラミドやN-アセチルグルコサミン、コウジ酸など美肌成分が豊富
・ビタミンB群が豊富で疲労回復に役立つ
・老犬や病犬の弱った胃腸に負担が少ない栄養ドリンク
日本の風土に合った発酵食品である甘酒は、犬を元気にする栄養ドリンクです。
<おまけ> 我が家の朝ごはん
甘酒スムージー
リンゴ1個
人参 1/2本
バナナか柑橘かキウイ 1個(本)
ベビーケール 1/パック
豆乳 150mlぐらい
甘酒 50ml
甘酒を入れるとスムージーにケールを入れようがゴクゴクと我が家の犬は飲んでいます。ワンコ達に大さじ3杯ずつくらい。残りを私がいただきます。これに私は半熟卵を2個食べます。1/4個くらいは二頭に持っていかれますが。
アマゾンで高評価のこっちの甘酒をいつかワンコと飲んでみたいです。
参考文献
※1 Cysteine Protease Inhibitors Produced by the Industrial Koji Mold, Aspergillus oryzae O-1018. T. Yamada, et al., Biosci. Biotech Biochem., 62, 907-914 (1998)
※2 Pathogenesis of mitral valve disease in mucopolysaccharidosis VII dogs. Bigg PW. et al.
Mol Genet Metab. 2013 Nov;110(3):319-28. doi: 10.1016/j.ymgme.2013.06.013. Epub 2013 Jun 25.
※3 Degradation of myocardial structural proteins in myocardial infarcted dogs is reduced by Ep459, a cysteine proteinase inhibitor. Tsuchida K et al.Mol Genet Metab. 2013 Nov;110(3):319-28. doi: 10.1016/j.ymgme.2013.06.013. Epub 2013 Jun 25. Biol Chem Hoppe Seyler. 1986 Jan;367(1):39-45.
※4 Immunohistochemical study of constituents other than beta-protein in canine senile plaques and cerebral amyloid angiopathy. Uchida K et al.
Acta Neuropathol. 1997 Mar;93(3):277-84.
※5 Japanese traditional dietary fungus koji Aspergillus oryzae function as a prebiotic for Blautia coccoides through glydosylceramide: Japanese dietary fungus koji is a new prebiotic., H. Hamajima, et al., Springerplus, 5(1) 1321 (2016)
※6 コウジ酸の顔面黄ぐすみに対する改善効果 伊賀和宏ら 西日本皮膚科 77(3), 244-249 (2015)
※7 糀甘酒が肌の保湿を促す 米糀に含まれる美肌成分 https://www.marukome.co.jp/rd/result07/
※8 日本の美肌ドリンク「甘酒」 効果的な飲み方は https://style.nikkei.com/article/DGXMZO13472400Y7A220C1000000/
※9 https://www.whole-dog-journal.com/issues/13_10/features/Carbohydrates-and-Your-Dog_20103-1.html