廿日市市あじな動物病院の中西です。あなたの愛犬は歯磨きさせてくれますか?動物病院に来た犬で、歯磨きをまったくしていないのに歯がとてもキレイな犬がいます。歯磨きをしないと歯石がついてしまう犬と、歯がキレイな犬、違いはなんなのだろう・・・と悩んでみた結果、気づいた唾液と歯茎とお口の健康についてお伝えします。
歯石と歯周病
お口のキレイな犬と、口臭のする犬、まずは「歯石」と「歯周病」の成り立ちについて考えてみます。
歯石ができ方
1,歯に唾液のぬめりが付く
2,ぬめりの中でバイ菌が増える、ゴハンのカスがつく(歯垢)
3,歯垢に唾液の中の「カルシウム」がたまっていく
4,石になる
5,できた歯石の上にぬめりがつき・・・くり返し
歯周病の起こり方
1,歯周ポケットにゴハンのカスが残る
2,バイ菌、特に空気がなくても増殖する「嫌気性菌」が増える
3,菌との戦いが怒る「炎症」
4,炎症で歯茎が傷つき、歯周ポケットが深く広がる
5、深くなったポケットで嫌気性菌が更に増える
どうやら歯石や歯周病を防ぐポイントは、唾液と元気な歯茎にありそうです。元気な唾液や歯茎を作るにはどうしたら良いかを考えてみましょう。
お口の健康ー唾液ー
犬の唾液の役割は、
1 口の中を洗浄して中性に近づける
2 口の中を細菌から守る
3 食事を飲み込みやすくする
4 口の中の粘膜を守り、保湿する
犬の唾液はヒトのものに比べてアルカリ性が強く(*1 pH7.76-8.1程度)、歯石ができやすいと言われています。しかし、唾液にはサラサラとネバネバの二種類の唾液があり、サラサラの唾液を増やすことで唾液を中性に近づけ、歯石をできにくくできる可能性があります。
サラサラした唾液が出るのは食事中とリラックス時。犬の立場にたってサラサラ唾液を増やす方法を考えてみましょう。
おなかがぐぅっとなる、食事にひと工夫
同じドッグフードとお水が毎日続くのと、トッピングにお肉や野菜や果物、あるいはフードがいくつかの種類が日替わりで何がでるかわからない、どちらがたくさんよだれが出そうですか?
・食事の種類やトッピングにアクセントをつける
・だらだらとオヤツを与えずに、食事とオヤツにめりはりをつける
これだけでも食事のときには唾液がしっかりでそうですよね。また食事と食事の間にしっかり胃腸を休ませることで副交感神経が働きやすく、サラサラの唾液が出やすい環境が整います。
また唾液に含まれる「酵素」が口の中を細菌から守る働きをしています。酵素の材料になる良質なタンパク質の取れる、質の良い食事をあげましょう。
ガジガジおやつが唾液と歯茎を刺激
長い時間噛めるおやつは歯磨き効果を期待でき(※2)、しかも噛んでいる間唾液がしっかり分泌されて一石二鳥です。美味しい噛みごたえのあるオヤツを準備することは、犬の口の健康にとても大切なことです。
また噛む筋肉を刺激することは、脳を刺激して「セロトニン」と呼ばれる幸せホルモンが分泌され、自律神経のバランスが整ってお腹のうごきも良くなる効果も期待されます。犬の幸せ度アップのためにも、ガジガジオヤツを毎日の習慣にしてあげましょう。
注:犬用の歯磨きガムの中には、美味しさを重視して糖質が多いものや、添加物の多いガムがあります。できれば無添加の乾燥アキレス腱などがおすすめです。
お散歩と遊びでメリハリを
散歩や遊びは、お口の健康や唾液と全く関係ないように思われるかもしれません。散歩をしっかりする。体を動かして遊ぶことでリンパの流れや血液の循環がよくなります。唾液や涙、汗にいたるまで、体のあちこちで分泌される液体は「巡り」が良くないと材料が不足し、良いものができません。
定期的に散歩すること気分がよくなり、リラックスすることで交感神経と副交感神経のバランスがよくなります。
大切なのは
サラサラ唾液は副交感神経=メリハリとリラックスです。
犬と一緒によく歩き、よく遊び、しっかり眠って元気な唾液をたくさんつくってもらいましょう。
歯茎の健康
歯と歯茎の間の歯周ポケットで歯周菌が増えて問題が歯周病。この歯と歯茎に空間ができないようしっかりくっつけてくれるのが、「歯根膜」という組織です。
歯根膜という大切な「結合組織」の主成分はコラーゲンで、コラーゲンを作るために大切なのが、実はビタミンCなのです。
良質なタンパク質とビタミンCがコラーゲンの材料
これが歯茎の健康にもっとも大切なポイントです。
ビタミンCを犬は体の中で作ることができるので、食事で取る必要は無いと言われています。アメリカの協会が定める(AAFCO)ドッグフードの栄養基準にビタミンCの項目ありません。
しかーし、ストレスがかかればビタミンCを消費します。菌と戦うにも、病気と戦うにもビタミンCを消費します。ストレス多き現代人と、その飼い主をケアする犬にはビタミンCが不足がちです。
果物や野菜を一緒に食べたり、野菜スティックをガジガジさせたり、積極的にビタミンCを犬に摂取してもらうことが、お口の健康にとても大切なポイントです。
海外のホリスティックケアの書物でも、口の健康だけでなく、病気の予防、あるいは治療にもビタミンCが大切であり、ビタミンCを積極的に与えることが推奨されています。
犬のビタミンCの目安量
1日200mg(0.2g)(※3)〜250mg(0.25g)(※4)
あるいは
体重1kgあたり40mg(※5)
おなかがゆるくなるときは減量しましょう。1日数回に分けてあげると効率良く吸収でき、下痢のリスクも減ります。ストレスの強い場合や、感染症や関節炎などの犬には2〜3倍量のビタミンCが必要になることもあります。
ビタミンCの豊富な食材です。
・柑橘類
・トマト
・パプリカ
・キウイ
・ブロッコリー
・ベリー
・スプラウト
・ケール
などなど。旬の野菜や果物をちょこちょこ食べていればポリフェノールや食物繊維も取れて良いでしょう。
ワンちゃん用のビタミンC
たいして歯石がついていないのに歯がグラグラな犬がいます。逆に歯石がたっぷりついているのに、歯と歯茎がしっかりしている犬がいます。ビタミンCがとコラーゲンの量に差があるのかなとにらんでいる今日このごろです。
まとめ
歯石をつきにくくし、歯周病を予防するには、元気な歯茎とサラサラ唾液がポイントです。
・おいしいゴハンとビタミンC
・ガジガジおやつと散歩と遊び
お口の健康、そして元気な体作りのために、食事と野菜と果物、ビタミンCと運動に気をつけてみましょう。
ただし、
自分が歯医者さんに行って歯石をとってもらい歯磨きの仕方を習って痛感しましたが、
犬もヒトも、
「歯磨きに勝る予防はなし」
・・・です。
参考文献
※1 Salivary pH, calcium, phosphorus and selected enzymes in healthy dogs: a pilot study. Ilaria et al. BMC Vet Res. 2017; 13: 330
※2 【検証!】歯みがきせずに、犬の歯石はとれるのか? anicom you HP より
https://mag.anicom-sompo.co.jp/1396
※3 小動物の治療薬 桃井康行著 文栄堂出版
※4 Four Paws Five Directions, Cheryl Schwartz, CelestialArts