こんにちは、あじな動物病院の中西です。犬のアレルギーの痒みを止めてくれる最新の薬が日本でも発売になりました。画期的なのはステロイド剤に比べて、数々の副作用がおさえられている点とその即効性です。今回は「アポキル」というお薬について解説致します。
- 新薬アポキルとは
- アポキルは本当に効くの?
- アポキルが効かないときに何を疑うか?(重要)
- アポキルが効かなかったときの対処法(20160916追記)
- アポキル減量のコツ(20170130追記)
- まとめ
新薬アポキルとは
アポキルというお薬が今までの薬と違うのでしょうか?
薬のターゲットが痒みを起こすシステムだけ。
ここがステロイド剤との大きな違いです。
基本的によく効く薬ほど、一緒に副作用もあるのがお薬というものです。頭痛薬を例に取ると、痛みをとってくれるかわりに胃に負担がかかります。
犬のアレルギー・アトピーに使われる、ステロイド剤の例をあげましょう。「痒みを抑える効果」はとても強力です。
しかし、その副作用をあげると、
・肝臓に負担がかかる
・水をたくさん飲む、おしっこがたくさん出る
・気分が落ち着かなくなる
・筋肉が落ちる
・免疫力が落ちる
・体を修理する力が弱くなる
・皮膚が薄くなり、黒ずんでくる
・糖尿病のリスクが高まる
︙
全身いたるところに作用する「ホルモン」剤なので、長く飲んだ場合の副作用は全身くまなく見られます。
「もし痒みが取れて副作用の少ない薬があれば・・・」
そんな獣医師と飼い主さんの願いを叶えるべく待ち望まれていた薬が「アポキル」です。
アポキルのような薬を作ることができるようになった理由は、「効かせたい所だけに合体する薬を、科学の力で作れるようになってきた」ことです。「分子標的治療薬」と呼ばれています。
分子標的治療薬は、ガン治療で研究がとても盛んです。ガンにだけ作用して副作用が少ない治療薬として、この「分子標的治療薬」大活躍しています。
アポキルは余計な痒みを起こす「ヤヌスキナーゼ」が薬のターゲット。ここにだけくっつきます。他の部分には作用しません。これが他の痒みを抑えるステロイド、抗アレルギー薬などとの大きな違いです。
アポキルは本当に効くの?
ステロイド剤を飲まないと痒くて眠れない。副作用はこわいけれど他の薬は効かなかった。そんなワンちゃんが私の動物病院にもたくさんいらっしゃいます。
高齢、肝臓が弱っている、何とかステロイドをやめたいワンちゃんに、アポキルを飲んでもらいました。
「その日からピタリ」
アゴを掻きむしっていた柴犬、首を掻きむしっていたキャバリア犬、アポキルが合った子は、痒みもおさまりステロイド剤をやめても全く問題ありませんでした。
ただし、ステロイドでかゆみが取れるけれど、アポキルは効かないという犬も一部います。3−4割とも言われています。
大きな問題点がもう1つあります。
高い、とっても高い。
その値段たるや、ステロイド剤の15倍(納入原価)。
ここが一番のネックです。早くに薬を減らしたいところですが、急ぐと痒みが出てしまいます。
ステロイド剤もそうですが、痒みを抑えて引っかかないことで皮膚がバリアが回復します。皮膚が回復してから薬を減らすようにしないと、すぐに痒みが再発しています。
アポキルを減らすためには、
・食事や環境中のアレルギーの原因を避ける
(空気清浄機、しっかりお掃除、布団のダニ取り・・・)
・ノミやダニなど、痒みを引き起こす外部寄生虫の予防をしっかり
・外出したらお風呂に入れる、体を拭き取るなど、
アレルギーの元を洗い流す
・必須脂肪酸と呼ばれる皮膚のバリアを作る栄養素をしっかり摂る
・プロバイオティクスや消化酵素などを利用して腸内環境を整え、
アレルギーの出にくい体を作る
など、
アレルギーを出にくくする基本的な対処は欠かせません。薬だけでは残念ながらアレルギーは抑えきれないのです。
こちらの記事も参考にしてください。
アポキルが効かないときに何を疑うか?(重要)
ステロイド剤を使うときにも同じことに注意します。
その病気は本当にアトピー、アレルギーですか???
これがとても重要です。
アレルギーで問題なのは、「過剰に起きた痒み・炎症」がつらいということ。だから薬でおさえるのです。
攻撃しなくていい花粉や、飲み込んだ食事の材料を「敵だ!」と攻撃し、つらい痒みが起こります。犬には余計なお世話ですよね。
このため静かにして下さい、余計なことはしないでくださいと、アポキルやステロイド剤を使用します。
体を守るために必要な炎症もあります
体にとって害のある菌と戦っている赤みや痒みは?その赤みや痒みをおさえてしまうと、菌に体がやられてしまいます。
赤みや腫れの相手がカビだったら?その腫れおさえるとカビがどんどん増えます。
赤くて痒いブツブツの原因がニキビダニだったら?そのぶつぶつを消そうとするとニキビダニが大増殖です。
アポキルやステロイド剤を使用するときには、
「感染症」に注意が必要です。
体を守る免疫が頑張り過ぎなのがアトピーやアレルギー。
頑張り屋さんを押さえつけて免疫が体を守れないと、菌やカビやダニに体がやられてしまうのです。
免疫が頑張りすぎて痒みがひどく、体を掻きむしって皮膚が荒れてしまうと、また菌やカビが悪さをし始めます。
薬はさじ加減が重要。そして使う薬が合っているのか、その薬は本当に必要なのか「正しい診断」がとても大切です。
逆に正しい診断であれば、
痒くて眠れないアトピー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎の痒みには、副作用が少なく、大きな力になってくれるお薬が「アポキル」です。
アポキルが副作用の少ないお薬といっても、副作用が無いわけではありません。
最も多くみられるものは、嘔吐と下痢です。薬を体が嫌がっているので、吐き気や下痢が見られる場合は他のお薬を探します。
アポキルが効かなかったときの対処法(20160916追記)
「アポキル 効かない」でこちらのページに来た方が多いようなので、アポキルが効かなかったときに何を考えるか?どうするか?を追記しておきます。
アポキルが効かないとき、アトピーやアレルギー以外の皮膚のトラブルがありあます。
簡単にいくつかのケースの対処法をまとめました。
①ニキビのように赤いぶつぶつが出ている
細菌性の毛包炎の場合
「毛穴でバイキンが増えている」ことが原因です。なぜ毛穴で菌が増えているかをまず考えなくてはなりません。
菌のエサ、余分な脂が毛穴から出てくる場合は、食事を見直す必要あり。
私はドーナツを食べると、翌日には100%ニキビが出来ます。食事の原材料の「動物性油脂」だけの場合や、「大豆油・なたね油・コーン油・紅花油」など、オメガ6脂肪酸の多い油は皮膚の赤み・痒みを起こしやすいので注意が必要です。
皮膚にいるバイキンが増えにくいように、殺菌力のあるシャンプーで洗うのも1つの手段です。「クロルヘキシジン」という成分が入っているものが動物病院では好んで使われます。
ビタミンB群や亜鉛、ビタミンEなど、皮膚のバリアに必要な栄養素が足りない場合もブツブツが出やすいので、ここまで来ると、「犬の栄養学」に精通したプロに食事相談が必要となります。
ニキビダニがいる場合
こちらが「ニキビダニ」です。
(出典:wikipedia)
犬の毛穴の中で暮らしています。一般的な「ノミ・マダニ」予防薬では死にません。
しかも毛穴の奥に住んでいるので、皮膚の検査をしてもなかなか出てこない困った連中です。
治療に「ニキビダニ専用」の薬が必要なので、どうしても獣医さんの診察と治療が必要なのが「ニキビダニ」です。
日本ではニキビダニ治療の認可がおりていませんが、ノミ・ダニ予防の食べるオヤツ、「ブラベクト」が食べるだけでニキビダニを治療できるため、犬の負担がとても少なくて済みます。
②体のあちこちがベトベトして痒い、特有の臭いがする
マラセチア(酵母菌)の場合
マラセチアの場合も対策は、ブツブツ(毛包炎)の対策とほぼ同じです。
食事の材料、特に油に気をつけること。マラセチアがいるときは、シャンプーは「カビ」を殺せるものを選ばなければなりません。(抗真菌成分入り:ミコナゾールやケトコナゾールなど)
一般の薬局で手に入るのが「コラージュフルフル」。

コラージュフルフル ネクストシャンプー すっきりさらさらタイプ 200mL (医薬部外品)
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動物病院で出される医療用のシャンプーは「マラセブシャンプー」。
皮膚を酸性に保って、マラセチアやブドウ球菌の繁殖をおさえるのも大切な方法です。皮膚の酸性度=pHが4あたりになると、
マラセチアとブドウ球菌はぐっと増えにくくなるのです。
体にやさしい自然派スプレーの記事です。
脂のべとべとがひどい場合(脂漏症)
毛穴の奥まですっきり脂を落とすシャンプーを使います。
洗浄力が強力なため、気をつけないと皮膚がバリバリに乾燥してしまいます。後述する保湿スプレーをうまく併用してください。
皮膚の脂の量が多すぎる場合は、「脂を油で浮かせる」ことが必要です。アメリカの先生なんかは、バケツサイズのココナッツオイルを使って、べとべとした皮膚に擦り込み、脂が浮いてきた所でシャンプーします。
ココナッツオイルには、殺菌作用と保湿作用があり、皮膚にはとても良いオイルです。
脂漏症の犬は体から湿気を取り除くため、「ドライフード」自体を避けることをおすすめします。冷凍フード・フリーズドライのフード・パウチのフード、手作りゴハンなど、べとべとギトギトした脂を含まない食事を選んであげましょう。
③皮膚が乾燥していて痒い
皮膚のバリアを作り、保湿に必要な栄養を補う必要があります。必須脂肪酸にビタミンE、セラミドにコラーゲン・エラスチンなどです。鶏の軟骨や皮や豚足、海藻などのヌルヌルねばねば食材も良いです。
犬用の保湿のためのスプレーや保湿液もあります。
<潤いスプレー>
ヒアルロン酸・コラーゲン・セラミド、天然成分の保湿クリーム(犬専用)
食事でオメガ3脂肪酸を補うためには、5kgの犬でイワシの水煮、大さじ1杯を一日。お魚が嫌いなら、お魚の油(フィッシュオイル)やオキアミの油(クリルオイル)がおすすめです。
フィッシュオイルならDHAとEPAを合わせて、体重5kgで100mg〜200mg程度が目安です。クリルオイルは人の10分の1から5分の1の量を目安に。
小さくて飲みやすいクリルオイル
食事にかけるのが楽なポンプタイプのフィッシュオイル
良質な熱をかけずに絞った植物油も重要です。ココナッツオイルにエゴマ油、アマニ油、オリーブ油、ヘンプオイル、くるみ油など。
体重5kgの犬で一日に小さじ1杯は良質な油を補ってあげましょう。
うずらの卵の記事も参考にしてください。
アポキル減量のコツ(20170130追記)
アポキルの添付文書どおりに使用すると、「体重1kgあたり0.4mgを、1日2回最長14日間経口投与する。さらに継続する場合には1日1回投与する。」となります。
しかし、よほどアレルギーの原因の除去がうまくいっていないかぎり、1日1回に減量すると痒みが再発するケースが多いです。
ここから先は半年間アポキルを使用しての、「個人的な見解」になり、添付文書に沿った「薬事法の元での適切な使用」からは外れます。参考にする場合は担当の先生と相談の上、個人の責任においての使用となりますのでご注意ください。
ポイント1 アレルギーが落ち着いてから減量
皮膚が新しく入れ替わるには1ヶ月半から2ヶ月ほどかかります。その間は減量せずに皮膚のバリアがしっかり再生してから減量した方が、痒みの再発率は減ります。
ポイント2 いきなり1日1回にしない
1日1回とせず、最初に飲んでいた量の半量を1日2回にする。例えば1錠2回だったのなら1錠1回にせず、1/2錠2回にする。この方が痒みが再発しにくいようです。
お薬が1日を通して効くためです。1日1回ですとどうしてもアポキルが切れる時間帯に猛烈に痒くなるようなのです。
一番痒い時間の数時間前に1日1回のアポキルを投薬するのも一つの手段です。
ポイント3 半量が無理なときは
1/2錠2回だった場合、1/4錠2回に落とす前に、もうワンステップ組みます。
「1/3錠2回」。段階的にゆっくりと薬を減らすことで、痒みの再発が起こりにくくなります。
1/3の割線なんて無いのですが、頑張って1/3にします。この道具を使うと以外とキレイに割れることがわかりました。
ポイント4 いきなり1日1回にせず、2回の日と1回の日を交互に
もう錠剤をこれ以上小さく割れなくなったら(アポキルの3.6mg錠1/4錠まで減量したら)、今度は1日2回と1日1回の投薬を、交互に行います。
1日2回・1回・2回・1回・・・・という具合にし、1日1回飲む日に痒みが再発しないか確認します。1日1回でも痒がらないなら、めでたく1日1回へのチャレンジをします。
ポイント5 原因の確認
何度も書いていますが、
・アトピー・アレルギー以外の痒みの原因がないか?
・アレルギーの原因は除去できているか?
この2点がアポキル減量の鍵です。
ポイント1〜3も大切ですが、ポイント4は絶えず獣医さんと一緒にチェックしてください。
まとめ
犬のアトピー性皮膚炎、
犬のアレルギー性皮膚炎。
診断が正しいなら、痒くて眠れないその夜に「アポキル」は絶大な効果を発揮してくれます。
アポキルで犬の痒みをおさえながら、
・キレイな水を飲む
・食事の材料に気をつける
・外で体についたアレルゲンはしっかり拭き取る、洗い流す。
・皮膚のバリアに必要な必須脂肪酸などの栄養にこだわる
・ノミ、ダニ予防はしっかりと
・腸内環境にもこだわってみる
しつこいようですが、アポキルが効かないときは、本当にアトピー・アレルギーなのか・・・ということから疑う必要があります。
犬に必要な栄養を学びたいなら、遺伝子レベルから犬に必要な栄養を考察したこちらの本がおすすめです。

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