廿日市市・あじな動物病院の中西です。毎日「椎間板ヘルニア」の犬の鍼治療をしているのですが、椎間板ヘルニアになった犬の生活環境には共通性が見られることに気づきます。また、椎間板ヘルニアになりやすい犬種のどこが生まれつき弱いのかを合わせて考えると、「椎間板ヘルニアを繰り返さないためにはどうしたら良いのか?」という答えが導き出せます。今回の記事は、犬の椎間板ヘルニアがなぜ起きるのか?原因から予防法を検討してみます。
なぜ椎間板ヘルニアになるのか?
椎間板ヘルニアの予防を考えるためには、まず「椎間板」の構造と役割を理解する必要があります。
椎間板とは体を支える背骨の間にあり、背骨の運動を助け体重を支える「クッション」です。クッションとなる犬の椎間板は袋と中身から出来ていて、クッションの袋を「線維輪」、クッションの中身を「髄核」と呼んでいます。
線維輪の主な材料は「コラーゲン」と呼ばれていて、柔軟性があって丈夫な線維でタンパク質とビタミンCのが主な材料です。髄核は二型コラーゲンとプロテオグリカンが主成分で、プロテオグリカンの材料は糖とタンパク質です。
この線維輪が弱くなって破けるとクッションの中身が飛び出して背骨の中の脊髄を圧迫します。これが椎間板ヘルニアです。
椎間板ヘルニアを起こしやすい犬種がいくつか知られていますが、ミニチュアダックスを例にあげると12番目の染色体に位置する遺伝子に問題があり、椎間板のみずみずしさを維持する細胞が少なってしまうと椎間板が壊れやすくなることがわかっています(※1)。
遺伝的に椎間板に問題の起こりやすい犬種はダックスフンド、フレンチブルドッグ、パグ、ウェルシュコーギー、ペキニーズ、ビーグル、シーズー、プードルなどで、早ければ生後6ヶ月くらいから椎間板がもろくなり始め、活発に運動する3−6歳から椎間板ヘルニアの発生が増えます(一般的な犬での椎間板ヘルニアの発症は統計的に8歳以上)。
椎間板ヘルニアになる理由 その1
椎間板ヘルニアの好発犬種は椎間板を作る遺伝子に問題があり、若くして椎間板がもろくなりやすい。
転んで擦り傷ができても、皮膚であれば1−2週間もあれば治ります。椎間板も傷ついたりもろくなれば修理されるはずなのですが、なかなか修理されずにもろくなってしまうのは、遺伝子の他にも理由があります。
椎間板には「血管」がつながっていません。傷がついてもすぐに血管を介して修理の材料と栄養が届かないのです。椎間板の隣にある軟骨終板から、栄養がじわじわと染み出して椎間板にエネルギーや材料を補給しています。
椎間板ヘルニアになる理由 その2
椎間板には血管が来ていないので、傷がついても修理が遅い
体を支える大切な「柱」である「背骨」は、どんなときでも体重を支え、体が動くときにはその大きな負荷を椎間板がクッションとして大きな役割を果たしています。人間が突然重い物を持つときにぎっくり腰を起こしやすいように、滑る床からソファにジャンプするときなどはかなりの圧が椎間板にかかります。その圧力の積み重ねと老化が椎間板をもろくしていきます。
肥満の犬は余分な体重が背骨に圧力をかけてしまい、椎間板ヘルニアの危険性を更に高めてしまいます。また筋肉が無くガリガリに痩せている犬も、背骨を支える筋肉が無いために圧力が椎間板にかかり、椎間板ヘルニアのリスクが高くなります。
椎間板ヘルニアになる理由 その3
椎間板は体重を支える柱である「背骨」を支えるクッションで、日常的にものすごい負荷がかかっている
以上の3つ、
・遺伝的に椎間板がもろくなりやすい
・椎間板は修理のための栄養補給が受けにくい
・椎間板は常に体重を支えるために圧力を受けている
これらをふまえると椎間板ヘルニアの予防策を見えてきます。
椎間板ヘルニアの予防に必要なこと
椎間板ヘルニアが起きやすい要因をふまえて予防を考えていきましょう。
タンパク質とビタミンC 材料をどっさりと足して椎間板を強化
ビタミンC
最初に椎間板の袋である「線維輪」の材料が「コラーゲン」という話をしました。コラーゲンは椎間板の線維輪だけではなく、皮膚や関節の軟骨など体のいたるところに存在します。
コラーゲンの材料はタンパク質とビタミンCのなのですが、椎間板ヘルニアになってしまったミニチュアダックスの回復と再発の予防に、ビタミンCが大きな役割を果たしていることが北アメリカのミニチュアダックスクラブのレポートにて報告されています(※3)。
このレポートによると、1日に500mg〜1000mgのビタミンCを椎間板ヘルニアの予防のためにミニチュアダックスに与えることを推奨しています。犬はビタミンCを自分で作ることが可能で(体重1kgあたり1日40mg)ビタミンCをサプリメントとしてとる必要無いと言われてます。
しかし遺伝的に椎間板が弱い犬種は、コラーゲンの材料である「ビタミンC」を日常的にたっぷり取る必要があることが、実際にダックスフントを飼っている人たちの経験から示されているのです。
<コラーゲンの材料としてビタミンC>
ビタミンC 1日500〜1000mg(※3、※5、※6)
ビタミンCは水に溶ける性質があり、おしっこでどんどん体から出ていきます。1日2回〜3回に分けてあげると効果的です。
ビタミンCの正式な名前はアスコルビン酸、酸性で胃腸への刺激があるので、必ず食事と一緒にあげましょう。ヨーグルトなどと一緒に与えると胃への刺激を減らすことが可能です。
ちなみにビタミンCはL-アスコルビン酸というのが正式な名前です 。成分が正しければビタミンCは植物も動物も人も同じですので、手に入りやすい人用のビタミンCはで全く問題ありません。
1錠が500mgで1日分、線が入っていて割りやすいビタミンC
タンパク質
元気な椎間板を作るための主な材料は「タンパク質」です。コラーゲンやプロテオグリカンを作るためにとても大切な栄養素です。良質なタンパク質、質の良いお肉や卵を豊富に使った食事をとることで、丈夫な椎間板を作られます。
一般的なドライフードはコストを抑えるために「穀物」=炭水化物の量が多くなり、コストのかかってしまうタンパク源の量が抑え気味です。お肉たっぷりタンパクたっぷりの食事をあげましょう。
ちなみに椎間板ヘルニアになってしまい病院に来られた飼い主の方に「食事をどうしたら良いですか?」と聞かれたら、「まずは半熟卵を毎日あげてください。」と答えています。
卵は体に必要なタンパク質の材料となるアミノ酸がバランスよく含まれていて(プロテインスコアが100)、ドライフードで不足しているタンパク質を補うにはとても良い食材なのです。黄身には後述するビタミンEが含まれていて消化もよく、申し分ない食材です。
<良質なタンパク源>
まずは半熟卵1日1/3〜1/2個を食事に加える
消化が良く栄養豊富なお肉を使った食事
食事についてはこちらの記事も参考にしてください。
椎間板のまわりへの血液の巡りを良くする
椎間板には血管が来ていないため、修理のための材料補給を受けにくくなっています。それではどうやって栄養補給を受けているかというと、「水分循環」だと言われています(※2)。
クッションである椎間板の中身「髄核」は、圧力がかかるとじわじわと水分を放出して縮み、圧力から開放されると水分を吸い込んで膨らみます。このときに水分と一緒にまわりの組織から栄養を受け取るのです。
このことをふまえると、椎間板にしっかりとした栄養補給をしてもらうためには、
1,適度な運動をして水の出し入れを促す
2,椎間板の周りの組織に栄養・修理の材料がたっぷりある状態にする
この2つを意識することで、椎間板に傷がついても修理のための栄養を補給できます。
ビタミンE
椎間板への栄養供給を強化し、椎間板の老化を防ぐ大切な栄養素が「ビタミンE」です。
ビタミンEには、
・フリーラジカルと呼ばれる細胞を傷つける物質から細胞を守る
・体の中の油が錆びついてしまうのを防ぐ
・血行が良くなる
・筋肉の血行もよくなり筋肉がつく助けになる
このような働きがあります。
フロリダ大学の椎間板ヘルニアを専門に治療する神経科の獣医師が、椎間板ヘルニアの予防にビタミンEの投与を推奨しています(※4)。
<椎間板への栄養補助、老化防止にビタミンE>
1日400〜800IU (※6、※7)
ビタミンEとのサプリメントを使う上で注意したいことがあります。ビタミンEには「α、β、γ、δトコフェロール」と「α、β、γ、δトコトリエノール」の8種類があり、天然のD型ビタミンEと同じ構造でなければ体の中で効果を発揮できません。
ビタミンEではなく「ミックストコフェロール」という単語で探すと、天然型4種のビタミンEが入った製品が見つかります。トコトリエノールを補うためにはtocomin suprabioという製品が売られています。
日々のビタミンE補給にはミックストコフェロールを1日400IU、たまにtocominをで8種類補うと良いでしょう。
ビタミンE、天然型4種類のトコフェロール
ビタミンE天然型8種類入はさすがに高価

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体重管理と筋肉の強化、椎間板の負担を減らす
椎間ヘルニアになりやすい要因として「肥満」があります(※1)。過剰な体重は背骨と背骨の間にあるクッションに絶えず圧力をかけてしまうのです。逆にガリガリで細身の犬も椎間板ヘルニアのリスクが高くなることもお話しました。背骨を支える筋肉がないと、背骨にかかる圧が全て椎間板に押し寄せます。
椎間板の材料としてだけではなく、筋肉の材料としてもたっぷりのタンパク質とビタミンEをとり、1日に2回は散歩に行って軽い運動をし、背骨周りにしっかり筋肉をつけましょう。筋肉があるのか無いのかわからないときは、動物病院に行って獣医さんに触診してもらいましょう。
<運動の目安>
1日2〜3回の散歩を合計40分〜1時間以上
一日の散歩が30分以下のダックスフンドは、もっと運動している犬より椎間板ヘルニアの発症が多いことがわかっています(※1)。
ビタミンEのところでもお話しましたが、椎間板が元気でいるためには運動をして椎間板に栄養を送りこみ、傷ついたところを修理する材料を提供する必要があります。
食べ物やサプリメントだけに焦点を当てるのではなく、適度な遊びと運動がとても大切なのです。ヒトも犬も、怪我をしにくく続けやすい運動は「散歩」です。季節の移ろいを犬と一緒に楽しみながらたくさんお散歩してください。
おさらいしましょう。椎間板ヘルニアの予防に必要なポイントは3つです。
・椎間板の材料をたっぷり足す(タンパク質、ビタミンC)
・椎間板に適度な運動で栄養の循環を促す、血行促進と老化予防(ビタミンE)
・筋肉をつけて背骨を支え、椎間板の負担を減らす(朝夕のお散歩)
その他に気をつけたいこと
椎間板ヘルニアになってしまった犬がどんな生活をしていたかを検証すると、いくつか腰や首に負担をかけないように気をつけるポイントが見えてきます。
・フローリングで滑らないよう工夫をする
・ぐいぐい引っ張る犬は首輪をやめる
・爪をまめに切って歩きやすくする
・持ち方に気をつける
1つ目のフローリングについてですが、フローリングの上にソファやベッドがある場合、飛び乗る際に滑ると腰にかなりの負担をかけます。逆に着地のときは床が硬いために肩から首への負担が大きくなります。
椎間板ヘルニアになってしまったワンちゃんが、かなりの割合でフローリングの上で生活していました。おそらくは掃除がしやすいからなのでしょう。
掃除をしやすいまま滑らない工夫をするなら、犬が滑らないワックス
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2つ目の首輪については、椎間板ヘルニアだけではなく、首の筋肉や神経のトラブルの予防のためにも体に合った胴輪に変えることをおすすめします。
フィッティングがとても大切で、体に合っていない胴輪でぐいぐい引っ張ると結局首に負担がかかるので意味がありません。
ぐいぐい行く犬にはクッションハーネス
椎間板ヘルニアになりやすい犬種の抱き方についてはこちらのサイトを参考にしてください。
http://www.dodgerslist.com/literature/watertherapy/WaterTherp2.jpg
腰が曲がらないように両腕で優しく支えるのがポイントです。
まとめ
椎間板ヘルニアの原因から考える予防に大切なことは、
・質の良いタンパク質とビタミンCをたっぷりとって元気な椎間板を作る
・ビタミンEを補って椎間板のまわりの血行をよくする
・適度な運動をして筋肉をつけ、背骨と椎間板への負担を減らす
この3つをまずは気をつけましょう。
今回は犬の椎間板ヘルニアの予防について書きました。
犬はビタミンCを作ることができるのでサプリメントは不要という説と、経験的にビタミンCを足した方が病気の回復や予防に役立つという立場があります。
犬は肉食か雑食か?という議論のように、「個体差」があると私は考えているのですが。
椎間板ヘルニアを例にとれば、胴が長い、頭が大きいなど、首や腰に負担がかかりやすい遺伝的要素、やわらかいクッションとしての椎間板をうまく作れるかどうかの遺伝的要素に加え、ビタミンCとタンパク質を使って、どこにコラーゲンを優先的に作るか?という順序が、皮膚が一番の犬もいれば関節が一番の個体もいて、椎間板の修理を優先させるワンちゃんもいるだろうということです。
椎間板の修理の優先順位が低い犬では、タンパク質やビタミンCを、同じ犬種でも他の犬よりたくさん加えないと椎間板がもろくなりやすいと考えられるのです。
東洋医学では人間一人一人、犬一頭一頭の体質を考慮して治療を組み立てます。サプリメントも、体質的に必要の無い個体もいれば、ビタミンCを含めたある物質が大量に必要な個体もいるだろうということです。
余分にとっても尿で排泄されるビタミンを加えることで病気の予防に役立つならば、ビタミンCをやEは積極的に補いたいところです。
参考文献
※1 BMC Musculoskelet Disord. 2015; 16(Suppl 1): S11.
Published online 2015 Dec 1. doi: 10.1186/1471-2474-16-S1-S11
PMCID: PMC4674860
Canine chondrodystrophic intervertebral disc disease (Hansen type I disc disease)
Clare Rusbridgecorresponding author1,2
※2 NIKKEI STYLE こまめに動けば背骨の若さ、強さを保てる
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO84877140W5A320C1000000
※3 http://www.equibalance.co.za/wp-content/uploads/2010/09/Dachshund_Back_Digest.pdf.pdf
※4 R.M. Clemmons, DVM, PhD Associate Professor of Neurology & Neurosurgery Department of Small Animal Clinical Sciences
http://www.wholisticpawsvet.com/articles/Integrative_Treatment_of_Dogs_with_Intervertebral_Disc_Disease.pdf
※5 R.M. Clemmons, DVM, PhD Associate Professor of Neurology & Neurosurgery Department of Small Animal Clinical Sciences
http://www.equimagenes.com/index.php/neurologia-integrativa/integrative-treatment-2
※6 R.M. Clemmons, DVM, PhD Associate Professor of Neurology & Neurosurgery Department of Small Animal Clinical Sciences
http://www.equimagenes.com/index.php/neurologia-integrativa/integrative-therapy
※7 Four Paws Five Directions, Cheryl Schwartz, DVM, CELESTIALARTS
※8 カスケード理論 https://www.megv.co.jp/megv/cascade.php
※9 Megascorbic Prophylaxis and Megascorbic Therapy:A New Orthomolecular Modality in Veterinary Medicine. Wendell 0. Belfield, D.V.M. and Irwin Stone, P.C.A. 1975