あじな動物病院の中西です。わが家のボンちゃんが、心臓病とクッシング病を抱えながらも14歳を迎えました。昨年の夏はよろよろと弱々しくなっていたのですが、最近は公園で元気に走り回っています。その秘密は、 内臓入りのゴハン!この記事では老犬や病気で弱った犬の食事に内臓を入れるメリットについてお伝えします。
なぜワンコの食事に内臓を入れるの?
ある日、わが家のワンコ達にプレゼントをいただきました。
「贅沢ジビエ・野ウサギ缶」
ウサギ???
早速その日の夕飯にウサギさんの食事を投入、食器を見つめる二頭の目つきが狩人の表情へ豹変。
ガツガツガツガツガツガツガツ・・・。
原材料を確認するとウサギの肉以外に心臓と肝臓など内臓が入っています。その後、内臓入りの食事を半年ほど続けるうちにボンちゃんに変化が。
心臓が悪く散歩に行くとすぐにへたりこんでいたのですが、最近は公園を楽しそうにテチテチ走り回っています。
あれ???
病気の薬に漢方や、サプリメント、ハーブを加えてもこうはいきませんでした。食事に入っていた内臓が鍵のようです。
ここで最初の質問に戻ります。
なぜワンコのゴハンに内臓を入れるのですか?
それはサプリメントや薬では補えないものが内臓を足すことで補えるから。
内臓の何が犬の体に良いのでしょう?
内臓の何が体に良いのか
薬膳で同物同治(どうぶつどうち)という言葉があります。弱っている内臓と同じ場所を食べると良いですよという考え方です。ですが昔からこう言われているから・・・ではいまいち納得がいきません。ワンコに内臓を食べさせると何が良いのか?順に見ていきます。
栄養の密度が濃い
犬が食べたゴハンは胃腸で消化・吸収され、ほとんどが肝臓へ運ばれます。肝臓は栄養を作り変える化学工場で、栄養素の倉庫=宝庫でもあります。例えばビタミンAの含有量は鶏肉なら100gあたり40μgですが、鶏の肝臓(レバー)100gには14000μg!まさに桁違いの栄養爆弾です。
内臓は、食の細くなった老犬や病気の犬には栄養効率の良い食材。
弱った内臓に必要な栄養素がそのまま取れる
内臓によって使うエネルギーのバランスが違います。脳は「ブドウ糖」をメインに使いますが、肝臓や心臓はブドウ糖に加え「脂肪酸」もエネルギーに使います。
例えば肝臓を食べると、肝臓が必要なエネルギーを肝臓の欲しいバランスそのままに補給が可能です。食事からエネルギーを取り出すために必要なビタミン、ミネラル、酵素なども一緒に摂取できます。弱った内臓の修理に必要な部品も揃っていて、至れり尽くせりなのです。
内臓の欲しい栄養そのままに。
内臓=薬
ウルソデオキシコール酸という肝臓の薬があります。このお薬、クマの胆汁から発見されました。胆汁は肝臓で作られます。つまり、肝臓を食べるということは、胆汁酸=肝臓のおくすりを食べるということ。他にもレバーには解毒に活躍するグルタチオンも豊富。こちらはタチオンという薬に。つまり、
内臓は食べる優しいお薬、同物同治。
体のバランスを取るホルモン
内臓には、ホルモンやサイトカインなど呼ばれる物質を作る仕事があります(シグナル分子)。細胞たちが連絡を取り合い、体内でバランスを取りながら仕事するための重要な物質達です。
老犬・病気の犬ではホルモンやシグナル分子のバランスが乱れがちです。内臓には、その内臓が作るホルモンの材料がしっかりそろっています。作られたホルモンも入っています。弱った内臓を食べると、一緒に摂取したホルモンやシグナル分子が内臓や肉体の修復力を高めることが知られています。
内臓を、コツコツ食べてホルモン補充
内臓が体に良い理由をまとめてみましょう。
・内臓はお肉よりぎゅっと栄養が詰まっている
・弱った内臓の回復に必要な栄養素がそのまま入っている
・「くすり」として作用する成分も持っている
・体のバランスをとる「ホルモン」の材料がそろっている
内臓を食事に足すとワンコは大喜びで食べてくれ、しかも体に良い。犬の食事に内臓を足さない理由がありません。
ワンコにおすすめ、内臓ランキング
野生の肉食動物は、獲物の食べられるところは内臓を含めてキレイに食べます。残すのは胃袋の中身(未消化の草)や大腸の中身(ウンチ)、噛み砕けない大きな骨など。ワンコにもすべての内臓をあげたいところですが、なかなか手に入れにい内臓もあります。
そこでここからは、ワンコに重要度の高い内臓から順にご紹介します。
1位 レバー(肝臓) 栄養の宝物庫
食べたものの栄養が集まる倉庫、それがレバーです。ワンコに必要なものがほぼそろっているというパーフェクトぶりから内臓ランキング第1位。
薬膳でレバーがおすすめの症状
・貧血
・視力の低下、特に夜に見えにくい場合
・栄養不良
・母乳の分泌不足
「養血補肝名目」の作用がレバーにあります。
肝臓に含まれる鉄分、ヘム鉄は吸収が良く貧血に効果絶大。肉の350倍含まれるビタミンAが目の元気には必須です。
手作りの食事を与えているのに毛がパサパサ、肉球がバリバリ、何かいまひとつ栄養が足りないときは、レバー(肝臓)を加えると吉。
2位 トライプ(胃壁) くっさいけど善玉菌の宝庫
レバーに一つだけ欠けているもの、それは善玉菌。そこで登場するのがトライプ、牛や羊などの胃の壁です。
トライプは牛や羊が食べた草と消化液が混ざりあった緑色をしています。この胃の壁に消化液に含まれる消化酵素、乳酸菌を始めとする善玉菌、菌が作ってくれた短鎖脂肪酸やビタミン、ミネラルが入っています。
肉やドッグフードでは摂取できない草を分解した栄養素と善玉菌がトライプの魅力。
薬膳で胃袋を食べると良い症状
・胃の疲れ、消化不良、食欲不振、便秘の改善
(補脾健胃の効果)
・虚弱体質、痩せている、白いおりものに
(補益虚損の効果)
3位 ハツ(心臓) 心臓とココロの元気
365日昼夜を問わず休まずに働く心臓。ハツ(心臓)は動き続けるエネルギーを作るために必要な栄養素であるコエンザイムQ10をタップリ蓄えています(鶏ハツで100gあたり12.4mg、胸肉は1.4mg)。心臓病をはじめ、老齢や慢性疾患の犬の多くでコエンザイムQ10が不足しています。
薬膳でハツを食べると良い症状
・心臓がドキドキする、めまい、血色が悪い(心臓が弱っているサイン)
(養血補心の効果)
・動悸、しきりに汗が出る、不眠、不安(神経症)
(安神定志)
ハツはビタミンB群、亜鉛、鉄分などを豊富に含み、脳や神経の働きを正常にして不眠や不安などの症状を緩和。心臓だけはなくハート(こころ)にも効くハツの魅力。
近年、心臓から分泌されるホルモンANPにガンの転移を抑える効果が見つかっており、ハツはまだまだ秘めた力を隠し持っているようです。
4位 フワ(肺) のどのバリアを強化
ふわふわサクサク食感の犬用オヤツとして売られていることの多いフワ「肺」。咳き込んだり痰がからんだりしやすい老犬にオススメの内臓。
薬膳での肺の効能
・肺が弱って出るの咳、息切れ
(補肺止咳)
肺に至る空気の道は、菌やウイルスが入り込むのを邪魔する防衛ライン。気道を覆う気道液には、菌と戦うリゾチーム、ラクトフェリンなどのタンパク質、表面を潤すムチンなどが含まれています。
のどがイガイガ、コンコンしやすい老犬や、呼吸器が弱いワンコにフワフワ肺を。
5位 マメ(腎臓) 水分のバランスと足腰に
腎臓が豆の形に似ているので「マメ」。私は肺と腎臓をスーパーで見たことがありません。お肉屋さんにお願いするか、インターネットで購入するか・・・。手に入りにくさ、内側の白い膜を取らないと臭みが強いなど取扱いに難があるので第5位にランク。
マメを食べる効能
・足腰が弱っている、力が入らない
・のどが渇く、頻尿、むくみ
(補腎強腰)
腎臓は、レニン、エリスロポイエチン、活性型ビタミンDなどのホルモンを分泌しています。レニンは血圧、水分、塩分の調節に関係。腎臓を食べるとのどの渇き、頻尿、むくみが改善するのはこのあたりと関係がありそう。
エリスロポイエチンは血を作るホルモン。腎臓にはビタミンB群や鉄分も豊富に含まれていて。貧血の改善に効果。ビタミンDは骨を元気にするホルモン。血が増えて骨が丈夫になれば、足腰が元気に。
番外編 骨・骨髄 弱ったワンコの栄養ドリンク
食欲がない、元気がない。胃腸がくたくた。そんなときは骨付き肉を煮込んだボーンブロス(骨スープ)。
骨付き肉をじっくりに煮込み骨の髄の栄養まで溶け出したスープは、タンパク質がアミノ酸にまで分解されて消化吸収しやすく、弱った胃腸を元気にしてくれます。骨髄には血液を作る材料がたっぷり、お肌プリプリのコラーゲン、関節の元気の材料コンドロイチンまで含んでいます。乾燥肌のワンコ、足腰や胃腸の弱った老犬にもボーンブロスがおすすめ。
ボンブロスの薬膳的効能
・慢性病による体力の回復
(填精)
・骨の強化、足腰の強化
(補腎強骨)
鶏ガラや手羽先で作ったスープは旨味が強く、豚骨スープはコラーゲンが豊富。牛骨スープはお肌潤うスフィンゴミエリンが多し。
内臓を食べるガッツが沸かないワンコの胃腸にボーンブロス。
ボーンブロスの作り方 3合炊きの炊飯器仕様
1 鶏ガラ(オーガニック) 250g
2 水 800ml弱
3 アップルサイダービネガー 大さじ1
炊飯器にセット、保温でスイッチオン
たまにのぞきこんで適宜お水を加えるのみ。
24〜48時間保温したら余分な骨を取り除いてスープの完成。パチパチ。
内臓をあげる際の注意点
犬に内臓を与える際に、いくつか注意するポイントがあります。
与える量
肝臓(レバー)はビタミンAを豊富に含んでいます。しかし、ビタミンA、D、Eなど、油に溶けやすいビタミンは脂溶性ビタミンと呼ばれ、過剰に取りすぎると体に蓄積するので、ほどよい量であげる必要があります。
レバーを与える目安は、食事全体量の5%、100gあたり5g程度が目安です。
鮮度
栄養素、酵素、ともにたっぷりの内臓は、すぐに溶けて腐ります。新鮮なものを手に入れて、家についたらすぐに調理しましょう。
どこから来た内臓なのか
肝臓は体に入った薬物や毒物を解毒する場所です。安く早く飼育するために抗生物質や成長ホルモンが投与された家畜の肝臓には、薬物や毒素が蓄積している可能性あります。
平飼いの鶏、農薬未使用の放牧地で自由に育った牛や豚や馬など、ストレスが少なくクリーンな食事をとって育った動物の内臓を使いましょう。
内臓入りのフードも使ってみよう!
内臓が手に入りにくい、扱いがなんだか気持ち悪い、クリーンな内臓を探すのが面倒。
そんなときは大自然で育った野生動物、飼育基準が厳しい国で育った動物の内臓入りのゴハンを利用しましょう。
ボンちゃん大好き、野生のウサギの元気が詰まった心臓・肝臓入りのワンコの缶詰
うさぎ以外にも有機の鶏、七面鳥、牛に羊に馬の缶詰や7種の日替わりデリカまで、美味しいワンコの食事を揃えるプレイアーデンについて詳しく知りたい方はこちらの公式HPを。
フリーズドライのニュージランド産の犬のお食事、農薬をまいていない自然の野山で育った牛や羊を使用。心臓、肝臓、トライプ、血液、脾臓、腎臓、骨まで入って内臓てんこ盛り
おわりに
内臓に含まれるホルモンの材料やシグナル分子などが、実は犬の健康に重要な役割を果たしています。
ワンちゃん大喜びのハツやレバー、サプリメントを探すよりサプリを超える栄養爆弾である内臓を、愛犬の食事に加えてみませんか?
<参考文献>
https://ziwipeak-jp.com/10925
http://perfectlyrawsome.com/raw-feeding-classifications/offal-organs-liver-guide/
https://www.eatthismuch.com/food/view/lamb-variety-meats-and-by-products-lungs-raw,465292/
https://wellnessmama.com/12579/organ-meats-healthy/
https://dailyhealthpost.com/the-many-health-benefits-of-eating-organ-meats/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14584743
https://www.adpkd.jp/yomoyama/vol04.html
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_451.html
https://www.k9natural.jp/column/dog/5.html
薬膳 素材時点 辰巳洋
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