こんにちは、あじな動物病院の中西です。今まで何の病気もしたことがなかった愛猫が、突然「腎不全」と言われてしまった・・・。そんな腎臓が悪くなってしまった猫ちゃんの飼い主さんへ、猫の腎不全について、治療・食事についてまとめてみました。
猫の腎不全とは
腎臓が悪くなってしまった猫に何が出来るか。
まずは「腎不全」という病気を理解するところから始めましょう。
腎臓はお腹の中の左右に1つずつあるそら豆型の内臓です。
腎臓の仕事は、
血液の中からいらない老廃物を尿の中へ排泄すること。
猫のご先祖様は中東砂漠の「リビアヤマネコ」らしいのですが、水の少ない環境を生き抜くためか、出来る限りおしっこを濃くして出すように体が出来ています。
犬や人より「腎臓」がものすごく頑張っているのです。
もう一つ。猫は100%肉食の哺乳類。
燃えカスの一番多い栄養素、「タンパク質」を主食にしており、毎日できる老廃物ー「尿素窒素」をせっせと尿に出さなければなりません。
「濃いおしっこ」を作り、タンパク質が燃えて出る「老廃物」を体から追い出すべく頑張っている腎臓。人間や犬に比べると、高齢になり限界が来るのが早いようです。
10歳になる猫の20匹に1匹、
15歳では5匹に1匹ぐらいの割合で腎臓が悪くなると言われています。
腎臓が悪くなると何が起こるの?
猫ちゃんの腎臓が悪くなると起きる問題点は、
・尿に出さなければならない「老廃物」がどんどん体に貯まってしまう。
・体に必要な水分までが腎臓から尿へこぼれ出てしまう。
・水分と一緒にビタミンBやタンパクを始めとした栄養も尿へこぼれていく。
これらの問題により猫ちゃんに見られる症状は・・・、
一つ目、
老廃物が体に貯まりすぎると、ものすごく気持ち悪くなります。
「二日酔いの気持ち悪さ」がイメージしやすいかもしれません。
たえず気持ち悪い。食欲が無い。ぐったり寝てばかり。
二つ目、
体にとって必要な水分まで尿へどんどん出てしまうので、たえず喉が渇きます。食欲が無いのに水ばかり飲むようになります。
三つ目、
ビタミンやタンパク質が腎臓から尿へどんどんこぼれていくので、痩せて、毛ヅヤが悪くなります。
四つ目、
体にたまった老廃物(尿毒素)が特有のにおいを出します。急に体臭・口臭がきつくなってきたときには、かなり病気が進行しています。
老猫が突然食べず、水ばかり飲み、やせて毛ヅヤが悪くなり、口臭がきつくなる・・・
というときは、腎不全を疑うことが多いのです。
残念ながら、加齢で一度壊れてしまった腎臓は元に戻ることはありません。血液検査で腎不全が発見される頃には、腎臓の7割以上が壊れてしまっています。
残された腎臓を守るためにはどうしたら良いのでしょう?
腎臓を守るために ー猫の腎不全の治療ー
弱ってしまった腎臓を守るために大切なことは、
1,食事の中のタンパク質を制限して、腎臓の負担を減らす。
2,薬やサプリメントで腎臓の負担を減らす。
3,点滴をして脱水を防ぐ、老廃物を尿に出す手伝いをする。
(人では人工透析)4,薬で腎臓の血流を良くする、食事から出る老廃物の腸での吸収を減らす。
3,4の点滴、薬は動物病院での治療が必要になりますので、ここでは簡単に。
首の後ろや背中の皮膚のたるみに水分を点滴、あるいは血管の中に水分を点滴し、尿の中に老廃物を追い出す手伝いをします。
点滴するのは一般的に「乳酸リンゲル」と呼ばれる、体液に近いバランスの液体です。
食欲・元気が出るまでの日数は、
・たまってしまった老廃物の量
・腎臓に残された老廃物をおしっこに追い出す能力
によって変わってきます。
定期的に点滴が必要な猫ちゃんには、飼い主の方が点滴の方法を覚え、自宅で点滴する方法も。
点滴の目的は「猫の気分が良くなって食欲が出ること」、猫ちゃんの性格、飼い主の方の希望をふまえ、どの程度の頻度で点滴治療をするのかしっかり獣医さんとの相談が必要です。
猫の慢性腎不全で、おしっこにタンパクが漏れて病気が悪化するお薬の名前は「フォルテコール」というお薬です。腎臓の血流を良くし、尿にタンパクが漏れるのを防ぐ作用があります。腎不全の初期に飲み始めるのが効果的です。
体に老廃物が少しでも貯まらないように、腸の中で体に吸収される「窒素代謝物」をくっつけて体の外に出て行く薬が「活性炭」。血液の中の「リン」の数値が高い猫ちゃんには「リン吸着剤」が必要なことも。最近では、老廃物・リンの吸収、そして腸内環境を整えて、悪玉菌が出す老廃物を出にくくする、一種類で全ての問題を解決するオールインワンタイプの腎不全の猫ちゃん用サプリメントも登場しています。
Petience PE キドキュア
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メーカー製品資料:http://www.petience.com/corporate/PE_Kidcure/product.pdf
いよいよ本題、自宅で出来る猫の腎不全のケアとして食事とサプリメントの話をしましょう。
猫の腎不全の食事治療
腎不全の猫に起こる問題は
・体に老廃物がたまる
・水分が腎臓からどんどん出ていって脱水しやすい
・おしっこにビタミンB群や、タンパク質がこぼれてしまう
という3つをお話しました。
・・・ということは、食事もこの3つを中心にすえて、残った腎臓の機能を守ることに全力を注ぎます。
タンパク質を減らし、脂肪分でカロリーを摂る
腎臓の負担を減らす治療食を出している会社のおおまかなデータですが、腎不全で何もしなかった猫の平均余命が6ヶ月、治療食(低タンパク食)を食べた猫の平均余命が2年、というデータがあります。
タンパク質は一番燃えカス=老廃物が多い栄養源。
タンパク質を制限すると、血液の中の老廃物が減り、腎臓の仕事が減ります。
また、壊れた腎臓からこぼれ出すタンパク質が減ると、残っている腎臓が壊れにくくなることが近年の研究でわかっています。
参考文献:http://www.otsukakj.jp/med_nutrition/pallette/dlfile.cgi/29/v12p03.pdf
タンパクの目安:
3−4kgの猫で鶏肉や牛肉ならば1日45gぐらいまで、ツナなどの魚ならば1日30g〜40gくらいが目安。そこに10〜15gくらいのアサリやシジミ缶のみじん切りを加えます。
体重1kgあたり3.5gのタンパク質が、猫が一日に必要なタンパク質の最低量です。
(出典 Home-prepared Dog & Cat Diet The Healthful Alternative
著:Donald R. Strombeck ,DVM, PHD)
大きな問題が1つ。
猫は100%肉食です。あまりにタンパクを制限すると「ゴハンが美味しくなーーーい」と、そっぽを向きます。
消化の良く、質の良いタンパク質を少量取りながら、減ったタンパク分、「美味しさを油でカバー」する工夫が必要です。
今まで好んでいた食事をベースにするなら、食事量を削ってタンパク量を減らし、
肉や魚を煮たスープを足して水分を増やし、猫の喜ぶ油や炭水化物を足してカロリーを補う工夫をします。
(食べていた食事を使うのは、こだわりの強い猫は手作りどころかフードの変更を一切受け付けないことがあるので)
油の目安:
1日 大さじ1〜1杯半の脂肪分。
鶏の脂や、非加熱の食物油。くるみ油、エゴマ油、ココナッツオイル、亜麻仁油などなど。低温で搾り出した質の良い油をあげましょう。
食事の質にこだわるなら、食べてくれる食材を集めて手作り食にチャレンジするのも良いですね。
水分をしっかりとれる食事にする
腎臓が元気ならば、体に必要な水分までおしっこにして出すことはありません。残念ながら、腎臓が悪くなってしまった猫の腎臓は、スカスカのざるのように、水分がザーザーとおしっことして出ていきます。
「気をつけないと体が干からびてしまう・・・」
猫は脱水すると食欲が落ちるので、水分がしっかり取れているかは死活問題。
繰り返しますが、腎臓が悪い猫ちゃんに大敵なのが「脱水」なのです。
その予防のためにも動物病院で「点滴」するわけですが、なるべく動物病院に行く回数・入院する可能性は減らすために、水分をしっかり取ってもらいましょう。
そこで大切なことは、肉や魚を煮たスープをしっかり食事に足して、水分をタップリ摂ることです。
猫は、犬や人より「タウリン」を大量に必要とするので、ポイントその1でも出てきたアサリやシジミのスープもオススメ。
飲み水も、キレイな水にこだわりましょう。
私は「硬度40以下の軟水・天然水」をおすすめしています。
軟水 = 溶けているミネラルが少ない = 腎臓の仕事が少ない。
いらないものもたくさんおしっこに溶かして出せます。
水道水はなるべく避けたいですね。
猫はヒゲが何かに触れるのを嫌うので、お皿は平たく大きい物を。
そして気が向いたらいつでも水が飲めるように、家中に水の容器を置いてください。
猫の脱水は食欲を落とします。死活問題。
オメガ3脂肪酸をタップリ加える
「頭が良くなる」なんてフレーズで有名な、DHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸。
魚の油やオキアミに豊富に含まれています。
このオメガ3脂肪酸、腎臓に良い効果をたくさん持っています。
血液をサラサラと流れやすくし腎臓の血液の流れを改善。また「炎症」をおさえる効果があるので、炎症に巻き込まれて腎臓がさらに壊れるのを防ぐ作用もあるのです。
もちろん人間の研究でも、オメガ3脂肪酸が腎臓病の進行を遅らせることが証明されています。(Lauretaniら, 2009)
腎臓だけではなく、脳の循環が良くなり、脳の老化予防も期待できます。
心臓や血管の負担が減るので全身が元気に。
猫では必須脂肪酸を摂るだけで、関節の痛みが和らぐ猫もいます。
(Fish Oil for Cats with Arthritis, 2013 Dr. Jennifer Coates)
猫の腎不全には、積極的にオメガ3脂肪酸を加えましょう。
DHAとEPAの両方を合わせて100mgから150mgが一日の目安。
人間の成人の1/4量程度とも言われています。
ソフトカプセルそのままでは飲ませにくいことが多いので、端をちょきんと切ってゴハンにかけてあげましょう。
貧血を予防する
うすいおしっこがドンドン出てしまうので、尿に溶けやすい栄養素、特にビタミンB群がどんどんこぼれていくのが、腎不全の猫で問題です。
ビタミンB群は血液を作る大切な材料。
鉄・ビタミンB群の入ったサプリメントを加えるか、イワシやレバーも食事に加えて、
貧血の予防が大切です。イワシ缶なら一日大さじ一杯、レバーなら1週間で20−25gくらいを目安に。
猫ちゃんの貧血を予防するサプリメントがありますので、食事に毎日加えるのも1つの方法です。
<注意>
腎臓から血液を作るための「エリスロポエチン」というホルモンが出ています。このホルモンが出なくなってしまった猫は、食事に鉄やビタミンBを加えるだけでは貧血は治りません。エリスロポエチンを補充する注射が必要なので、獣医師の診察・治療が必要です。
猫の腎不全の手作り食 参考レシピ
40−45gの鶏ムネ肉、または牛の赤身 (タンパク源)
(あるいは40g弱のツナ)10−15gのアサリかシジミの水煮缶 (タウリン源)
(スープは大切に、一緒にまぜます。身は食べにくいのでみじん切りorミキサー)
以上タンパク質は20−30% 猫ちゃんの好みに合わせて
イワシ缶 大さじ1 (ビタミンB源)
または貧血予防の液体サプリメント1cc
大さじ4杯のおかゆ (炭水化物)
大さじ1杯の鶏の脂身、または植物油 (脂肪分)
(エゴマ、亜麻仁、ココナッツ、オリーブ油など、低温圧搾で猫の好きな油を)
フィッシュオイルまたはクリルオイル 1粒
3−4kgの猫ちゃんの参考レシピです。
腎不全の進行度合いや、筋肉・活動量によって食事の量はかわってくると思います。
また猫ちゃんの好みにより、
ツナ → マグロ、タラ、鮭、カツオなどに変えても良いでしょう。
(参考文献がアメリカの本なので、魚といえばツナになってしまうようです。)
まとめ
体の水分を保ち、いらないものをおしっこに出してくれる「腎臓」。
腎不全になってしまった猫ちゃんの腎臓を守り、
少しでも気分よく過ごしてもらうために、
・タンパクを減らして油でカロリー補給(美味しくて体に良い油を)
・必須脂肪酸(魚・オキアミ)、ビタミンBや鉄分(レバーやサプリ)、
タウリンの補給(アサリ、シジミのスープ)をしっかり
・キレイで美味しい水をタップリと、いつでもどこでも
レシピも大切ですが、
気持ちが悪い猫ちゃんにとって、
「美味しく食べられる」食材を探すことがまず第一です。
その一口が、明日の元気になります。
追記:猫の腎臓病治療薬に新しく「ラプロス」が2017年4月に発売
2017年1月25日 附
猫の腎臓の血流を改善して腎不全の進行を遅らせる薬が春に発売になるようです。ラプロスの成分、ベラプロストナトリウムというお薬は、猫の「心筋症」にも効果が見られる研究もあり、心臓や腎臓の病気を持つ猫ちゃんには期待のお薬ですね。発売が待たれます。
参考文献
Curr Pharm Des. 2009;15(36):4149-56.
Omega-3 and renal function in older adults.
Lauretani F, Maggio M, Pizzarelli F, Michelassi S, Ruggiero C, Ceda GP, Bandinelli S, Ferrucci L.
Four Paws, Five Directions: A Guide to Chinese Medicine for Cats and Dogs
著: Cheryl Schwartz, DVM
Home-prepared Dog & Cat Diet The Healthful Alternative
著: Donald R. Strombeck ,DVM, PHD
Fish Oil for Cats with Arthritis
2013, Dr. Jennifer Coates Blog : http://www.petmd.com/blogs/nutritionnuggets/cat/jcoates/2013/aug/fish-oil-for-arthritic-cats-30817
Omega-3 Fatty Acids and Arthritis In Cats
2013, Dr. Ken Tudor Blog : http://www.petmd.com/blogs/thedailyvet/ktudor/2013/jan/omega-3-fatty-acids-fish-oils-and-arthritis-in-cats-29779